吉池安恵ブログ 第六回

第六回 人間関係を表すことわざ


日本語には人間関係をあらわすことわざや慣用句が多くあります。昔から人々の間で使われてきた言葉はそれなりに意味深いものがあるな~と感心させられることも多々あります。私はセッションの中で時々それらを引用しますが、今回はその内の幾つかをシェアしたいと思います。


○ 折り合いを付ける

これは、交渉事などで、互いに譲り合って双方が納得できるところを探り、解決することをいいます。

人と人との関係や国と国との関係で意見や考え方の違いがあるのは当たり前のことです。そんな時自国の利益、個人の言い分だけを互いに主張していたのでは何も解決できません。一方だけでなく双方がある程度譲り合うことで初めて問題は解決できるのです。折り紙でも山線、谷線があってそれをうまく合わせていくことでひとつの形が出来ていきます。カップルの間でも仲良くやっていくためにはこれは大切なポイントではないかと思います。


○ 損して得取れ、負けるが勝ち

これもよく使われる言葉です。目先の利益を追うのでは無く、一時的には損をしても、将来的に大きな利益になることを考えろという意味です。これはビジネスの場面だけでなく、人間関係の場面でも使われます。

似たような言葉に負けるが勝ちというのもあります。争わず相手に勝ちを譲ることで、結果として自分の勝利に繋がるという意味です。勝つことばかり意識して相手と争っていると、その場では自分が勝ったとしてもお互いに傷つけ合うことで関係が悪くなってしまいます。自分が負けることで相手との関係を良好に保つことは、結果として勝つことに繋がるのです。

誰かと喧嘩になりそうな時、どちらも勝ちたい、負けたくなと思えば、互いに主張するばかりで、建設的な解決に繋がりません。そこを一方が一時負けることで、お互いに冷静な話し合いが出来、よい解決法が見つかるとすれば負けたことはマイナスではなく、長い目で見てプラスに繋がります。負けた人は、我を通す人ではなく、穏やかな、対局を見る人という評価や尊敬を得ることになり、結果的には勝った人より大きなものを得ることになるかもしれません。


○江戸の仇を長崎で討つ

意外なところで、また筋違いのことで、以前の恨みの仕返しをすることの例えです。また、全く関係の無いものを討って気を晴らす時にも使われます。

人間関係ではこういうことがよくあります。喧嘩になるとどうしても自己主張の強い人、声の大きい人、理屈を言うのが上手な人が主導権を取りがちです。温和しい人、争いが嫌いな人、自己主張の下手な人は自分が負けてしまうのがありありなので、途中で引き下がってしまうことがよくあります。といって納得したわけではありませんからどうしてもわだかまりが残ってしまいます。言い負かした方は気持ちがすっきりしますから、気分も揚々としていて、相手に対して「何時までも引きずるのはよくないよ。気分を変えて出かけようか?」などと気楽なものですが、言い負かされた方は負けを受け入れているわけではないので、口数も少なくなり、何となく鬱々としています。そんな気持ちが残っているので、相手が何か小さな間違いをした時に、鬼の首でも取ったように責め立てることがあります。

「トイレのドア、開けっ放しじゃない!きちんと締めてって何時も言ってるでしょう!」

「ひじ付いてご飯食べるのやめてくれない!子供が真似するでしょう!」と

何時もなら、穏やかに言えるところがとげとげしくなってしまいます。或いは、いつもなら相づちを打つようなところで、知らんぷりをしていたり、「爪切り見なかった~」と相手が聞いてきた時も知っていながら「さあ~」と取り合わなかったりします。心理用語では「パッシヴ アグレッシヴ」と言われます。ハッキリとNOと言えない人、反論できない人が不機嫌な様子で周囲を不愉快にすることで間接的に攻撃するという訳です。よく見られる光景ですね。

日本人に多い行動と言われますが、それを避けるためには、もっとアサーティヴになる必要があるかもしれません。アサーティヴというのは自己主張ということですが、その際大切なのは「相手の気持ちを傷つけないように、でも言いたいことははっきり言う」という態度です。


喧嘩になると、どうしても負けたくない、勝ちたいという気持ちが強くなりがちです。でも落ち着いて考えて見ると、目的は問題解決にあり、それにはいきり立つより冷静に話し合うことの方が大事なことが分かります。

喧嘩になりそうな時、なった時など「ああ、あれあれ」とことわざを思い出すことで、自分や相手の行動を冷静に、客観的に見つめることが出来、穏やかに話し合うきっかけになるかもしれません。



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