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吉池安恵ブログ 第二十六回

ブログ第26回  ライフサイクル


最近ライフサイクルという言葉をいろいろなところで耳にするようになりました。ライフサイクルは元来人の誕生から死までの過程を円環状に表現した言葉ですが、今ではビジネスの分野でも製品の製造からそれが消え去るまでの全過程を表す言葉としても幅広く使われています。


一年の中に季節の節目があるように私たちの人生にも誕生から死に至るまで様々な節目があります。人は赤ん坊から老人に至るまで、肉体的、精神的、社会的にも変化していきます。こうした変化をライフサイクルと言い、その理論を打ち出したのが心理学者のE.H.Eriksonです。彼は人間の発達を乳幼児期、幼児前期、幼児後期、学童期、青年期、成人前期、壮年期、老年期という8つに分けました。そして、それぞれの段階で達成すべき課題を設定し、その課題をひとつひとつクリアして次に進んでいくことで人は発達していくと考えました。


エリクソン以前にも人生を周期で捉えようという考え方はあり、ユングもそのひとりです。彼はライフサイクルとは言いませんでしたが、人の一生を一日になぞらえて捉え、少年期、成人前期、中年期、老年期の四つに区分しました。そして、ひとつの時期から次の時期への移行時には転換期と呼ぶ「危機」があると言っています。彼は35歳から40歳頃を「人生の正午」と名付け、この午前から午後への転換期に人生で一番大きな危機が訪れると考えました。それに対処するためには人生の前半と後半の生き方を変えるべきだというのが彼の主張です。前半の生き方は山登りをするようなもの、脇目も振らず高みに登ろうとする、達成を目指す生き方。それに反し、後半は山を下りるような生き方。周りの景色を眺めたり、足下の花を愛でたり、時には立ち止まって風の匂いや音を感じ取ったり、ゆっくりと深く味わう生き方と考えたのです。また彼は中年期を「人生の午後3時」と名付け、3時のお茶の時間を楽しむように、人生を楽しみながら次の老年期に向かう準備をする期間と捉えたようです。

ユングに倣うわけではありませんが、私も時々自分が一日のどの辺りにいるかと考え

ることがあります。そろそろ寝る時間かな?でも、その前にゆっくりと本も読みたいし、お茶も飲みたいし、もうちょっと夜更かしして楽しみたいななどと考えます。残り少ないかけがえのない愉しい時間です。


人生を季節や一日のサイクルで捉えるこうした考え方は心理学の分野だけでなく、実は昔から中国でもあったようです。

孔子が自分の人生を振り返った次の言葉は儒教の教えとしてだけではなく、日本でも人の生き方の手本とされてきましたが、ある種のライフサイクルと言えそうです。

「吾十有五にして学を志し、三十にして立ち、四十にして惑わず。 五十にして天命を知り、六十にして 耳順 (したが)う。 七十にして心の欲する所に従えども、矩 (のり)を踰 (こ)えず 」

この言葉から一五歳を 志学 、三〇歳を而立、四〇歳を 不惑 、五〇歳を 知命 、六〇歳を 耳順 、七〇歳を 従心 と呼ぶこともあります。中でも「不惑」や「天命」は孔子のことを知らない人でもよく耳にする言葉になっているようです。

時代や国によって捉え方はいろいろですが、人は人生の中で一様に生きるものではなく、どこかで生き方を変えるのだというところでは同じように思われます。

四季のある国に住んで、木々の変化や季節の移り変わりを実際に見ていると、サイクルという捉え方は身近に感じられるように思います。そして人間のサイクルに終わりがあっても、季節はまた巡ってくる。そこに希望があり、人が自然を愛する所以かもしれないな~と考えたりします。

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